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聖夜の守護者 リプレイ小説

【注意事項】                                           CardWirth、竹庵様製作シナリオ『聖夜の守護者』のリプレイ小説です。                            シナリオを元に作成していますが、小説化に当たって加筆や修正を加えています。                                                   ※『聖夜の守護者』のネタバレを含みます。                                              

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プロローグ
一つ、二つ。
吐き出した息が白く視界を煙らせる。
見上げれば暗い夜空から綿毛に似た結晶がふわりふわりと幾重にも舞い降りて来る。
視線を下げればそこには、広がる街並み。
夜が深まる中でも街は確かに息づいていた。
そこここで火が焚かれ、多くの人々が三々五々に飾り付けられた街を行き交う。
真夜中を知らぬ街リューン。多くの夢と多くの希望を孕んだ街リューン。自分の街リューン。
街を囲う高い壁の上からその光景を見つめながらワーテルは再び、白い息を吐いた。
吐息で街が霞む。まるで夢の中の景色の様に鮮明さを失い、本当に夢ではないかと錯覚すら覚える。
こんなにも大きな街で、こんなにも大勢の人間を見つめながら、こんなにも夢を膨らませながら。
―聖夜の夜。自分はここにいる。
つい一年前の自分では考えられもしない光景だ。見上げる程に高い外壁も、数多くの人間も、夜中に明かりが灯された街並みも故郷には存在しなかった。
「なぁ、ワーテル。見回りはどうだ?」
背後から声をかけられ、ワーテルは意識を現実に戻し「異常なしだ」と一言返した。
今日は生誕祭。聖なる夜だ。
敬虔な聖北の信者であれば教会に礼拝へと向かうだろう。
聖夜など関係ない、騒げれば何でも良いという者であれば酒場で酒を煽って盛り上がっているだろう。
日の当たらない場所に住まう者達はどうだろうか。
聖夜など構わず眠っているのだろうか。それとも彼らもまた、神に感謝などせずとも聖夜を楽しんでいるのだろうか。
数多の思いが交錯する街。数多の生命が存在する夜。数多の者に降り注ぐ雪。
ワーテルは舞い降りる雪を掌で受け止めた。
「俺達は、この"聖夜の守護者"なんだよな」
彼に似合わないあまりに詩的な表現だったせいだろう。背の後ろから乾いた笑いが起こった。
「"聖夜の守護者"ね。あぁ、違いねぇや。俺らはリューンの聖夜を護る守護者ってワケだ」
雪が降る。白く覆う。視界がまた翳る。
しんしんと、いつまでも舞い落ちる。
『リューン歳時記』12月の項より

「冬至を過ぎると、聖北教会最大の祭日の一つ・ 聖誕祭が巡ってくる。
日々の平穏をもたらす神の御恵みに感謝しながら、人々は家族や友人と楽しいひとときを過ごすのである」
1.
"彷徨うクラゲ亭"の"ワーテル"の事を彼を知る者に尋ねれば半数は「あの馴れ馴れしい奴か」と答えるだろうし、残りの奴に尋ねれば「あのお人好しか」と答えるだろう。
ワーテルに関して説明するにはその二言で凡そ事足りる。
冒険者と呼ばれる職業の者の多くは"馴れ馴れしく"もなければ"お人好し"でもない。それ故に彼は目立つのだ。
どちらの特徴も仕事を勝ち取る上では弊害となる事が多いからだ。
初対面で馴れ馴れしければ依頼人にも同業者からも煙たがられるだろうし、お人好しであれば盗賊ギルド辺りにいい様に騙されるのがオチだろう。
それ故に半年前から冒険者として仕事を始めたワーテルは周囲から少しばかり浮いた存在だった。
齢は十八。性別は男。出自が狩人の村で、ボウガン使いとしての腕は悪くない。
容姿こそパッとせず特徴の無い中肉中背に、群衆に紛れれば二度と見つからないような平凡を絵を描いた様な顔をくっつけているはいるが、性格は善良で人当たりも悪くない。
何より初対面の人間に対して物怖じを一切しない事に関しては右に出る者は居なかった。
眉間に皺を深く寄せた歴戦の勇士に対しても、闇に隠れ明らかに常軌を逸しているといるとしか思えない盗賊ギルドの暗殺者にも、聖北の教義の元あらゆる者を粛清してきたと思わしき異端審問官に対しても、彼は笑顔一つでへらへらと声をかけるのだ。
あまりの警戒心の無さに宿の親父や同じ宿の冒険者に注意される事もあるが、彼がそれを正す様子は一切無い。
故に彼は僅か半年ほどの間にリューンの間で―良い意味でも悪い意味でも―知り合いを数多く作っていた。
知り合いこそ多いが彼の軽率さが仇となる事を恐れてだろう。彼をパーティの一員にと選ぶ者は居なかった。
仕方なしにワーテルは一人でこなせる程度の依頼を引き受けたり、他のパーティに頼み込んで共に依頼を受けたりする事が大半だった。
そんな調子なので冒険者になり半年が経過していたが、未だに新人らしさが全く消えないのが現状だ。
冒険者になったからと言ってすぐにドラゴンだのトロールだのを退治出来る様になると言う甘い考えはさすがにワーテルも持っていない。
だが、さすがにゴブリンの一匹、二匹くらいは一人で片付けられる程の実力は身に着けたい。
そう思いはすれど、今日もワーテルは非常に簡単な依頼…宿の亭主から頼まれた"おつかい"を済ませ、常宿への帰路へと着くのだった。
「ただいまー」
宿の扉を肩で押しやって開くと暖炉で暖まった風がふっと頬を薙いだ。
外は冬空。まだ午前の空気は酷く冷え切っていて身体が芯まで凍りそうだった。
今日は降るだろう。宿の親父が窓の外を見遣りながらそう呟いていた事を思い出す。
頬に伝わる温度は冷たくなった身体には心地良い熱気だった。
「おう、帰って来たか」
ワーテルを出迎える声を上げたのは、見慣れた宿の主でも娘さんでも無かった。
「あれ?何だ、ディルクか。どうしたんだ、今日は聖夜だから警護があるんじゃないのか?」
恰幅の良い身体に寂しい頭皮。頭髪に比べ、立派に生え揃った口髭を貯えたその顔はワーテルも良く知る男だった。
聖夜の夕食の仕込み用だと頼まれた買い物の袋をカウンターに置いてから、ワーテルはディルクの正面に腰かけた。
テーブルには宿の親父が作ったであろうサラダが一皿置かれている。ディルクが注文した物だろう。彼は器から瑞々しい菜っ葉を一枚口に入れた。
ディルクはリューン自警組合の隊長の一人だ。
リューンはとにかく広く、人が多く、それ故に犯罪も多い。騎士団も存在しているが何せそいつらはエリートだ。
スリやら食い逃げやら酔っ払いの暴行やらそう言った小さな事件にいちいち対応などしてはくれない。
そう言った細かいアレコレを処理しているのが自警組合だ。
ただ何せあくまで"自警"だ。人数が足りないだの、腕利きの勇士が必要だのそう言った時には冒険者を雇う事がある。
ディルクもリューンに多数ある冒険者の宿に出入りをして、人を雇う事が多々あった。
恐らく、今日も呑気にサラダを食べに来たわけではあるまい。
この時点でワーテルは既に勘付き始めてはいた。
聖夜。賑わう街。増える酔っ払い。その酔っ払いを狙うスリ。そのスリを殴る酔っ払い。あとはもう大乱闘だ。
「聖夜だから来たんだ。あとは…何となくわかるだろう?」
テーブルを挟んで軽く笑うディルクにワーテルは軽く肩を竦めながらも小さく息を吐いた。
「…というわけで、 一晩雇われてもらいたい」
ディルクは事のあらましを説明した後に改めてワーテルの顔を見遣った。
早い話がこうだ。リューンを囲う街壁にある門の警備を一晩頼みたいという話だ。
危険が伴う街中の警邏に比べればだいぶマシだ。ただ突っ立って周囲を警戒しているだけでお金が貰える。
常に金欠なワーテルからすればすぐに飛びついても良い依頼だが今日は勝手が違う。
何せ今夜は、このリューンに来てから初めての生誕祭だ。
宿の親父が腕によりをかけて作った夕飯が出て来るという話だし、大人数が教会に集まると噂の礼拝にも一度くらいは参加しておきたい。
何より。聖夜に仕事と言うのは十八歳と言う年頃の青年にとっては余りにも寂しすぎるではないか。
たとえ家族や恋人と呼ばれる存在が身近にいないのだとしてもだ。
いつの間にかカウンターに現れ皿を磨いている親父に目を遣ると、我関せずといった様子でこちらを見もしない。
大方、依頼を受けてツケをとっとと返せとでも思っているのだろう。
「常に勤務しているから "常勤隊"だろう。税金泥棒もいいところだ」
「しょうがないだろ、風邪が流行ってるんだから。常勤隊員だって生身の人間さ」
嫌味を言ってやると、目の前の中年男は悪びれもせずにそう返してくる。
「だからって、揃いも揃って聖夜に寝込むか?」
ディルクが言うにには自警組合の連中は流行りの風邪でばったばったと倒れているらしい。おかしな話だ。
いくら冷え込む日が続いているとはいえ、こんな聖夜に全員が全員寝込んでいるとはさすがに察しが悪いワーテルでも不審に感じる。
「今月は盗賊騒ぎだなんだでウチの隊員たちにゃ無理をかけ通しだったからな…」
ディルクは遠い目で彼方を見つめながら口髭に手を遣った。
「風邪でばたばた倒れても不思議ではあるまい?いやもう、こっちも困ってるんだよ」
眉根に皺を寄せて本気で困っていそうな様子にワーテルの心が揺らぐ。
確かに今月はリューンの中で大規模な盗賊団が暗躍しているとやらで自警組合が一斉襲撃を行った事は記憶にも新しい。
ワーテルもそれの手伝いをした。まぁ、手伝ったのは戦闘ではなく食事の提供やら捕らえられた盗賊の搬送やらではあったが…。
自警組合でも怪我人が大勢出た事は知っている。その穴埋めに他の隊員が奔走した事も知っている。気の抜けた聖夜に風邪くらい引いてもおかしくないのだろうか。
…いや。一瞬だけ丸め込まれそうになったがワーテルは思い直した。
「盗賊騒ぎのときは俺たちも手伝っただろ。無理なら俺も一緒だ」
自らも寝ずに盗賊団の襲撃を手伝った事を引き合いに出す。
「せっかくの聖夜なんだからさ、今晩くらいは礼拝に参加させてくれよ」
まさか宿で酒盛りをして騒ぎまわりたいからと言う理由で断るのも気が引けた。仕方なしに敬虔な聖北信者を装いワーテルはそれらしい理由を並べる。
「当番は夜明けの8時まで。明日の午前礼拝には間に合うさ」
あっさりとディルクにそう返され、ワーテルは小さく唸った。相手は交渉に置いては自分よりもずっと上手だ。
いや、そもそも自分は交渉事に向いていない。『お前さんは嘘がすぐに顔に出る』と宿の親父につい先日言われたばかりだ。
恐らく自分が熱心に教会に通うために依頼を断ろうとしているなどとはディルクは一切信じていない事だろう。
ワーテルは子供が母親に言い訳をするかの様に口を尖らせて不満めいた声で問いかけた。
「でも、なんで俺なんだ?リューンには他にも冒険者はいるだろう。穴熊亭のゲルダだの、髭亭のジェルジだのにやらせればいいんじゃないのか?あいつらヒマそうだし」
すぐに思い浮かんだ他の宿の人間の名を口にする。お互い様だとは思いはするが彼らもいかにも聖夜に暇を持て余していそうな冒険者達だ。
ディルクはワーテルの放った名に飛びつく様に小さな瞳を輝かせた。
「それよ、それ。さっき廻って来たんだが、奴さんたち、二つ返事で引き受けてくれたぞ。当然ワーテルも大喜びで受けてくれると思ったんだが…。いやあ、実に残念だなあ…」
二つ返事。彼らとて聖夜にわざわざ寒空の下で警備する依頼などに即答で引き受けたとは考えられないが、ディルクに上手に丸め込まれた可能性は否定できない。
何せ彼らも聖夜にする事と言えば酒を飲んで宿で騒ぐか、とっとと寝るくらいしか予定は無いはずだからだ。
ディルクの胡散臭い芝居がかった言い回しにワーテルは眉を顰めた。
追い打ちをかける様にディルクが更に芝居がかった声で身振り手振りを交えて続ける。
どうやらリューンの自警組合の隊長は演者としての才能もお持ちの様子だ。ただし、過剰すぎる演技のせいで喜劇の様にしか見えないが。
「明日にはリューンじゅうに噂が広まってるだろうよ。ワーテルは肝心なときに役に立たないデクノボーだって」
「言いふらすのはあんただろう。ひどい自警隊があったもんだ」
なんだかんだ言って断った所でディルクが本当にワーテルの評判を落とす様な事を言わないのは分かっている。
単に自分を焚きつけるための冗談だと知っているが、さすがにデクノボー呼ばわりされれば多少は思う所もある。
ただでさえ、雑用の様な仕事しか回って来ない弱小冒険者だ。リューン市民を守る警備の仕事よりも自分の楽しみを優先させるのかともう一人の自分が心の中から訴えかけてくる。まして他の隊員は風邪だと言う話だ。お人好しの性としては見て見ぬふりは出来ない。
ワーテルは小さくうめき声を上げた後、「わかったよ」と顔を上げた。
「ほかならぬ隊長の頼みだ。引き受けてやってもいい」
潔い返答にディルクが手を叩いた。
「それでこそワーテル。リューンの誇る冒険者だ!」
「よせって、見え透いたヨイショは」
到底、自分がリューンの誇れる冒険者とは思えないが褒められるのはまんざらでもない。
褒められればお世辞であろうと素直に喜ぶ。その程度には彼は単純なのだ。
照れるワーテルを余所にディルクは「さてと」と立ち上がった。
「それじゃあ、午後3時半に組合に来てくれ」
ただでさえ忙しい聖夜を控えた時間だ。隊長としてやるべき事はいくらでもあるのだろう。
ワーテルも呼び止める事はせず「じゃあ、後でな」と右手を上げた。
「親父、サラダごちそうさん。代金置いとくからな」
カウンターに代金を置いたディルクに宿の亭主は小さく頷く。
来客者は足早に寒空の下へと扉を開けて出て行った。流れ込む外の空気は先ほど以上に温度を下げている様に思えた。
亭主と自分の二人きりになった食堂は酷く閑散としていた。
他の冒険者達は恐らく、今夜のメインイベント…礼拝もしくは飲み会のために睡眠を謳歌しているのだろう。
ワーテルも彼らとは違う理由で眠っておかなければならないだろう。何せ今夜は徹夜で門の警備に当たるのだから。
親父に「寝てくる」と一声だけかけ、ワーテルを自室へと向かった。
今夜は長くなりそうだ。
待ち望んだ新たな街での聖夜。一年前の自分とは明らかに違う環境。リューンの街はいかに寒かろうが賑やかだった。
2.
ワーテルは狩人として生計を立てている小さな寒村の出身だ。
村に人間は多くなく、特に年若い者は少なかった。
ワーテルの父親も例に漏れず狩人でボウガンの名手だった。巨大な猪やら熊やらを狩り、家族どころか村人総出でその肉を突いた思い出がいくつもある。
特に父は狼狩りに長けていた。獰猛な牙を剥き出しにした白狼のはく製が家の広間に飾られ、ワーテルも父の偉大さを感じ取った物だ。
その父親を間近に見て、幼い頃から狩りの仕方を教わって来たからだろう。
ワーテルもいずれは立派な狩人となり、妻を娶り、子を成して、その子に狩人としての技を受け継いで行くのだろう。
漠然とながらも自分の人生をそう思い描いていたのは事実だ。
その考えを根底から覆す事件が起こったのは彼が15歳になってすぐの事だった。
村を妖魔が襲ったのだ。相手はゴブリン数体。
村の端に位置する家に奴らが現れた際に男連中が各々武器を構えて立ち向かったが、ゴブリン達は獣とは違った。
鎧を身にまとい、独自の言語で意思疎通をして連携を取り、魔法で狩人達を眠らせ、その隙に攻撃を加える。
ワーテルも妖魔の退治に参加したが不可思議な術のせいで途中からの記憶が残っていない。
目を覚ますと脚に深手を負った父親が母親から治療を受けている姿を目の当たりにした。
幸いにもゴブリン達は数名の狩人に深手を負わせたが、食料を奪ったのみでその日は森へと消えて行った。
獣とモンスターは違う。どんなに強靭な獣を仕留めた歴戦の狩人でもモンスター相手では敵わない。
その事実は村の狩人達にとっては信じがたい事実だった。
村長はすぐに結論を出した。それは村の男達にとっては屈辱的だったが、誰も反対する事の出来ない大きな決断だった。
―冒険者を雇う。
それが最も早い解決策だったのだ。
―午後3時半。
ワーテルは馬車やソリが行き交う大通りからすこし脇道に逸れた自警組合の事務所前にいた。
まだ夕方と呼ぶには早い時間だと言うのに、日はすでに翳り始め街のあちこちで松明に火が点されている。
耳に入る喧騒はどれもこれも楽しそうにはしゃいでいた。
大通りに目を遣ると、幼い子供を連れた夫婦が微笑み合いながらはぐれない様にと子の手をしっかりと握って歩いているのが見えた。
そのまま額縁に収めれば一つの絵画にでもなりそうな幸せに満ちた光景だ。
これから夜へと向け、街は更に華やかさを増すのだろう。
色づいた街からパウンドケーキの甘い香りや、七面鳥を焼く香ばしい匂いが漂ってワーテルの鼻をくすぐった。
そういえば親父に頼まれた買い物の中には丸々と太った七面鳥があった。
せっかく重い思いをしてまで買い出しに行ったと言うのにそれが自分の口に入る事は無いのかと思うと悔しいやら悲しいやらでつい本音が漏れてしまう。
「…聖夜に吹きっさらしで門番か。なんで引き受けてしまったんだろうな」
言葉と共に白く煙る息を吐いたワーテルに手を上げながら近づいてくる人物がいた。
「よう、"彷徨うクラゲ亭"の。聖夜に勤労とは、お互い精の出ることだ」
ディルクとの会話の中に出て来た冒険者。髭亭のジェルジだ。
厳つい目元に皺を寄せながらもその目は確かに笑っていた。
ブロンドの髭は寒さに毛先が凍りかけている様子で、翳り始めた陽光に輝いていた。
「どうせヒマだしな。お前ら同様に。お、穴熊亭のゲルダも来たな」
二人の姿を見つけてか、大通りの向こうからふくよかな女性が笑みを浮かべながら歩み寄って来る。
この寒さに対抗してよほど厚着をして来たのだろう。
冬眠前の熊の様にふっくらとふくらんだシルエットは決して体格のせいだけではないはずだ。
確かに今夜は冷え込みそうだ。
ワーテルも十分厚着をしてきたつもりだが夜の冷え込みは雪山へ赴く様な出で立ちでないと耐えきれないかもしれない。
「やぁ」「よう」と互いに声を掛け合い、聖夜に仕事を入れてしまった互いの境遇を笑い飛ばす。
「のんびりするつもりだったけど、ワーテルもジェルジも二つ返事で受けた、と聞いたらね」
ゲルダが漏らした言葉にワーテルは「ん?」と首を傾げた。
どう考えても時系列がおかしい。
あの時、ディルクはジェルジもゲルダも二つ返事で引き受けたと言っていたではないか。
「ちょっと待ってくれよ。ディルクのおっさんは何時に来たんだ?」
眉を顰めるワーテルにゲルダはどこか楽しそうに言葉を返した。
「10時半過ぎだったわ。依頼の話して、スープだけ飲んで帰って行った」
「こっちには10時だ。ゲルダもワーテルも引き受けたぞ、とか言ってソーセージ食って帰ってったぞ」
ゲルダとジェルジの台詞にワーテルは頭を抱えた。やられた。完全にディルクの策に嵌ってしまったではないか。
「ウチには9時だ。あのソラマメ親父…」
今更、文句を言おうが騙されたと喚こうがディルクは証拠が無いと取り合わないだろう。
それに何より、一度引き受けた依頼を簡単には反故にしないワーテルの性格まで読んでの事だろう。
さすがは口の上手さでは天下一品の盗賊ギルトとも張り合える自警組合だ。
初めから新米冒険者が敵う相手では無かったのだ。
唸り声を上げるワーテルを余所にジェルジとゲルダはディルクのやり口には慣れている様子で『またか』とでも言いたげに目くばせし、苦笑しただけだった。
そんな三人の心境を知ってか知らずか、丁度良いタイミングで例のソラマメが満面の笑みを浮かべながら自警組合の事務所から出て来た。
「寒い中お疲れさん」
「おい、ジェルジとゲルダが二つ返事で引き受けたなんで嘘じゃないか。しかも俺をダシにして二人を勧誘したんだな」
腕組みをして悪態を吐くワーテルにディルクはまた芝居がかった仕草で首を竦めると「何の事やら?」とおどけてみせた。
やはり彼は喜劇以外の役者には向かなさそうだ。その仕草はまるで道化の様に滑稽だった。
案の定、ディルクはすっとぼけるつもりだ。
これ以上、たてついた所で意味も無いだろう。今更、やっぱりやめたと依頼を放棄するつもりもない。
仕方ないとばかりに頭を掻くワーテルを一瞥すると、ディルクは話し始めた。
「さて、さっそく仕事の説明だ」
ソラマメの様な頭の上に降り出した雪が落ち、まるで芽が生えたかの様に見えた。
仕事の内容は想像した通り、酷く単純明快だった。
リューンを囲む壁の東に位置する門とその周辺の警備。
巨大な門は外敵から街を護るために建てられた堅牢な物で、トロールでも連れて来ない限りはその門扉を無理矢理開く事は不可能だろう。
門はこの後、日没から翌日の夜明けまで閉ざされる。
その間、何人たりとも出入りは許されない。
聖夜の喧騒で気が大きくなってか、はたまた聖夜の喧騒に紛れて良からぬ事をしようとしてか、門を押し通ろうとする者や外壁を乗り越えようとする者が数年に一度現れるらしい。
内から出ようとする者を捕らえる事。それから外からの侵入を防ぐ事。それが任された仕事だ。
「絶対に入れてはならんのは盗人だの狼だの妖魔だの。流れ者の傭兵崩れとか、他国の軍隊も。ま、当然だがな」
ディルクは真面目な顔をして三人にそう告げた。
当然故に、絶対に許されない。一人でも侵入を許してしまえばリューンの聖夜が血に染まる事になる。
ジェルジが自らの髭を撫でながら、つと言葉を挟み込む。
「そんな大切な門番を俺たちに任せていいんですかい?金次第でそいつら入れちまうぜ」
ディルクはそんな台詞を鼻先で笑うだけだった。
「やれるもんならどうぞ。お前さんたちもリューンを愛してくれてると思うがね」
彼は選んでいる。リューンを根城とする冒険者の中からこの門を託せる相手を。
彼は知っている。冒険者達が金よりも大切な信念を持っている事を。
大切な聖夜だからこそ、彼は自分を選んだのだ。
ジェルジもゲルダもリューンを拠点にして長い冒険者だ。
自分は違う。まだこの地に来て半年しか経っていないひよっこでしかない。
それでも、彼らと同程度に自分も信頼されていると言うのは誇れる事に違いない。
気乗りしなかった聖夜の仕事だったが、ワーテルはディルクの言葉に俄然、ふつふつとやる気が湧いてきたのであった。
…もっとも、それすらディルクの計算の上だったかどうかまでは考えもしなかったが。
3.
ゴブリンの襲撃を受けてから二日後。冒険者と呼ばれた人間達は僅か3人でワーテルの村へと赴いた。
人払いされていたが、ワーテルはこっそりと村長の家で交渉をする彼らのやりとりを裏口の窓から覗いていた。
『ゴブリンは…で、…おそらく、それ…眠りの…です。…で、あれば、こちらは…』
途切れ途切れに耳に入る言葉は聞きなれない物ばかりだったが、冒険者が村長から詳しい状況を聞き、何かを説明している事だけは分かった。
リーダーと呼ばれる男は決して"歴戦の勇士"と言える容姿ではなく、ありふれたどこにでもいそうな中年男性だった。
貫禄で言えばよほど自分の父親の方が迫力がある見た目をしているだろう。
彼はくすんだ色の鎧姿で使い込まれた剣を携えており、それだけが彼を冒険者たらしめていた。
もう一人、リーダーの横で黙って話を聞いている男は冒険者と言うよりも盗賊と呼んだ方が良いのではと思える様な黒装束で、短剣を何本も腰のベルトに刺していた。
そして何よりワーテルの目を惹いたのは3人目の人物だ。
ワーテルと年もあまり変わらない見た目をした細身の少女。
華奢な身体はローブの様なダボダボとした衣装を纏っており、一応は武器になりそうな杖を持ってはいるがあの細腕で殴った所でゴブリンを追い払えるとは到底思えなかった。
冒険者とはこんな物なのだろうか。村長は騙されているのではないのだろうか。
疑問を感じながらもワーテルは彼らから目を離す事が出来なかった。
御伽噺で耳にした冒険者とは大きく異なる。お話の登場人物は屈強な戦士や老獪な魔術師で、ドラゴンやオーガを片っ端からなぎ倒していた。
少なくともうだつの上がらなそうな中年男でも、盗賊めいた男でも、か弱そうな少女でもない。
実物とはこんな物か。あまりに想像していた冒険者像と異なっていたため、ワーテルは落胆しながらも冒険者達が話を終えるのを待っていた。
村長が一体いくら積んだかは知らないが、寒村の安い収入からひねり出した金ではこの程度の冒険者もどきを雇うのが精一杯だったのだろう。
やがて、話が終わったらしく村長の家から冒険者達が出立する準備をし始める。
ワーテルは裏口の窓から慌てて離れ、駆け足で村長の家の表玄関へと急いだ。
単なる興味本位だ。御伽噺の登場人物でしかなかった存在に触れ合う機会などもう二度と無いのかもしれないから。
扉を開いて出て来たリーダーの男に駆け寄る。
「なぁ、俺も連れて行ってくれないか?これでも森には詳しいんだ。案内するよ」
ワーテルの言葉に村長が冒険者の背後から怒号を上げたが構わずに男の顔を見た。
遠くから見ていた時には気づかなかったが、その黒い目には確かな光が宿っていた。
その背後に佇む黒ずくめの男も、まだ幼い少女も、よく似た強い意志を瞳に宿していた。
「…坊主、遊びじゃないんだぞ?」
不意に放たれた声は遠くから掠れ掠れ耳に入った声よりずっと低く、相手を圧巻させる響きを持っていた。
なるほど、これが、冒険者と呼ばれる存在なのか。
背が粟立った。ただの中年男ではない。彼は、確かに―。
「遊びのつもりなんかない。俺は狩人だ。この村を守る狩人なんだ」
明確に答えたワーテルに村長が再び怒号を上げたが、冒険者がそれを片手で制した。
「わかった。確かに狩人らしいな。ただ、俺達の戦いには絶対に手を出すな。後ろで大人しくしてろ。それだけは約束してくれ」
問いかけにワーテルはしっかりと頷いた。
―午後4時、リューン東門。
冬の太陽は月にその場を明け渡すのが早い。
辛うじて大気を温めてくれていた日が地平線の向こう側へ沈んでしまうと、寒さが更に増した。
ふわりとビロードの布を広げたかの様に、一瞬で夕闇がリューンの街を包み込む。
その青みががった黒を彩るのは白銀の雪の粒だ。
枯れた木々にも、華やいだ街にも、家路を急ぐ者にも、それからそれを見守る自分にも平等に降り注ぐ。
周囲の村からリューンに買い出しに来た者たちが荷物を積んだソリを走らせ、門から出て行く。
馬の足跡とソリが滑った跡が石畳に僅かに積もった雪に薄い軌跡を残して行った。
横切る顔はどれも穏やかな聖夜の晩餐を心待ちにしている様子で、見るからに幸せに満ちていた。
しばらく往来が続いていたが、やがてはその足は途絶え、門の周囲にはその警護に当たる者達が残される。
「よし、閉めるぞ。 エミール、手伝え」
ディルクがまだ若い自警団員に声をかけ、門を閉じ始めた。
開いた状態と閉まった状態のどちらも見慣れていたが、門が閉まる瞬間はまだお目にかかった事がなかったな。
そんな事を思いながら、ワーテルは巨大な門がその口を閉じるのをじっと見遣っていた。
大きな音を立てながら、市門はゆっくりと眠りについた。
聖夜のリューン。凍える寒さ。雪の中。
明朝の8時までこの門を守ることが、ワーテル達の今晩の仕事だった。
しんしんと雪は降り続く。
この仕事を引き受けた時はじっとしているだけで金が貰えるとは何て楽な仕事なのだと思っていたが、ワーテルはその甘い考えを訂正した。
"じっとしているだけ"が兎にも角にも辛くて仕方無い。
寒さに手足の先は凍え、自然と鼻水が垂れて来る。その鼻水すら凍りそうな気温だ。
これなら街中で酔っ払いの喧嘩の仲裁でもしている方がまだ体も動かせて温かいかもしれない。
「ううっ…寒っ!」
すでに凍り付き始めている外套を寄せ集めながら、吹き付ける風から身を守った。
休憩の時間は設けてあると事前に説明を受けている。その間だけは温かい詰所で暖をとれそうだが、その前に凍死してしまいそうだ。
「しかし、 本格的に降り出してきたわね」
真横で警備をするゲルダが天を仰ぎながらぽつりと漏らした。
雪は街を覆いつくさんばかりに空から幾重にも幾重にも舞い落ちて来る。
「これじゃ、雪だるまになってしまうな」
今、ここで立ったまま意識を失えば本当に翌朝には立派な雪だるまに成り果てるだろう。
ワーテルが震える声で愚痴るとゲルダは軽く笑ってそれに返した。
彼女は寒い地方の出身だと聞いている。今日の身なりも雪深い地域の者が着こむ衣装と似通っていた。
表面から見えない部分には更に寒さに対抗するための装備をしているのかもしれない。
寒い地域に住む者は、寒さに言葉すら凍り付いてとかく無口なものだ。
誰が言ったかは覚えていないが、雪深い寒村での依頼を受けた時に誰かからそう聞いた事をワーテルはふと思い出した。
その時は『言葉すら凍り付く』とは大袈裟だと笑い飛ばしたが、今ならその気持ちも分かる。
もう言葉を紡ぐ気力すら残ってはいない。冗談抜きに本気で明日には雪だるまと化しているかもしれない。
肩に積もった雪を振り払う事すらせず、ワーテルは凍てつく風に無言を決めている門をただ見つめていた。
ようやく小休憩が入ったのは午後8時半を回った頃だった。
警備を始めて4時間。市壁まわりの巡回を終えた後だった。
門扉の前で立ち番をするよりかは巡回は体を動かせる分まだマシだったが、寒い事には変わりない。
門の前でパチパチと音を立てて周囲を温めてくれている焚き火にワーテルは凍え切った掌をかざした。
血液がゆっくりと体内を巡る。強張った関節が僅かずつではあるが動き始める。
詰所からディルクがカップを二つ持って出て来る。カップから白い湯気がもうもうと立ち上がっているのが燃え盛る炎越しに見えた。
「キューッと一杯、酒で暖まる…というわけにもいかんからな。ま、茶でも飲んでてくれ」
一つはワーテルに、もう一つはゲルダに手渡される。
確かにこんな夜は温めた葡萄酒で乾杯でもできれば最高だろう。体の芯から温まるに違いない。
カップの中の液体が茶色の紅茶ではなく、甘酸っぱい葡萄酒だと想像しながらワーテルはゆっくりとそれを飲んだ。
熱い液体が口を、喉を、胃を、通って行くのがはっきりと分かる。
体温よりも高い熱が心地良い。「ほっ」と息を吐きながらそのまま一気に飲み干してしまう。
雪だるまと化した体が内から解凍される気分だ。
ディルクは二人にカップを渡した後は仮眠の時間だと言いそのまま詰所へと戻って行った。
焚き火の側にはワーテルとゲルダの二人きりとなる。
降雪は警備の始めの頃に比べれば随分と穏やかになっていた。時折ではあるが重く立ち込めた雲の切れ間から月が覗く事すらある。
だが、生憎と今は月どころか星の一つも目に入らない天候だ。
「この夜の仕事はこたえるわよね。はあ…」
ゲルダがため息と共に言葉を漏らす。それはワーテルに向けて言ったのではなく、自分自身に対する嘆息の様に聞こえた。
ワーテルは揶揄する様に肩を竦めて見せた。
「北国で狼を追っかけて育ったゲルダのセリフとは思えないな。トシなんじゃないのか?」
女性に対して大変失礼な台詞ではあるが、ゲルダは構わず穏やかに首を振った。
「違うわよ。聖夜に働くことが、精神的に、よ」
「…あぁ」
門を横切って行った人々の顔が脳裏に浮かぶ。
はしゃぐ幼い子供、聖書を片手に颯爽と歩く聖職者、老いた母の手を引く女。…それから、酒樽を担いだ同業者と思われる男。
そのどれもが幸せそうに笑みを浮かべながら街を行き交っていた。
干し葡萄が入った甘いケーキ、ゴブレットに並々と注がれるエール、腹に香草が詰められ表面をパリパリに焼かれた七面鳥。
一つ、二つと浮かんでは消え、浮かんではまた消えた。
「そうだな…今ごろ宿じゃ親父たちが宴会やってるな」
自分もその喧騒のさなかに居たのであろうと想像してしまうと、侘しさが心に募る。それはゲルダも同じなのだろう。
互いに手にあるカップを見つめて白い呼吸を漏らした。
「ま、冬のさなかに仕事があるのを感謝しましょ…」
「…そう思わなきゃ、やってられないよな」
4.
冒険者達の言いつけ通り、ワーテルはゴブリン退治に手を出すどころかボウガンの一本も打つ事は無かった。
否―ボウガン一本も打つ隙が無かったのだ。
ゴブリンを前に冒険者は一度たりとも怯む事は無かった。
見張りのゴブリンを黒ずくめの男が音も立てずに近寄り、一撃の下に叩き伏せた。
その後もいびきをかきながら眠りこける巨大なゴブリンを手慣れた様子で屠ると、最後にはローブを纏ったゴブリンが率いる集団との闘いへと赴いた。
数は7体。さすがにその数を気づかれないまま倒す事は不可能であり、狭い洞窟での乱戦となった。
ここで最も活躍したのは、意外な事にまだ年若い少女だった。
ローブを纏ったゴブリンが出した―多くの狩人達を眠らせた―煙を杖先から放った風で吹き飛ばし、更に光り輝く光の筋をローブを纏ったゴブリンを守るように立ちはだかった一体の頭部に向けて撃ったのだ。
ワーテルも魔法と呼ばれる存在は怪我や毒の治療で何度か村でも目にした事があった。
だが、少女が放った光は…相手を貫く程鋭い光は、彼が初めて目の当たりにする物だった。
光はボウガンの矢の様に一瞬でゴブリンの額を射抜き、そして消えた。
ワーテルはただ呆気に取られるだけだった。
妖魔との戦いは獣との戦いと似通った物だと思っていた。だが、実際は全く異なった物だった。
狩人と冒険者は違う。戦い方も、戦いに対する考え方も。
獣の群れにもリーダーが存在しており、リーダーが先陣を切って群れを率いて襲い掛かってくる。
このゴブリンの群れは違う。統率するリーダーは存在しているが奴は後方に控え他のゴブリン達に自らを守らせていた。
そして、指示を出しながらも後方から魔法で援護射撃をしてくるのだ。
ローブを纏ったゴブリンが何か言語を発するとゴブリンの視線が一点へと向けられる。
敵の中で最も弱そうな相手―少女だ。
一斉に牙や爪が少女を狙うが彼女は動かない。そして、襲い掛かったゴブリン達の首が数秒後には体から切り離され鮮血が舞った。
黒ずくめの男がナイフで喉元を掻き切る。
目と目だけで合図をし、相手の動きを読んで攻撃を加える。
冒険者は判断も行動も素早かった。少女に狙いを定めたせいだろう。手薄になったローブ姿のゴブリンの隙を見逃す事は無かった。リーダーの男が短い雄叫びと共にローブを纏ったゴブリンの頭蓋を叩き割る様に剣を振るうと、断末魔と共にその体躯が他に伏せられる。頭蓋を割られ、緑色の化け物は僅かに痙攣した後に動かなくなった。じわりじわりと地表に血溜まりが広がって行く。指示者を失ったゴブリン達は右往左往するばかりでもう冒険者達を見もしなかった。戦意を失った組織を蹴散らすのは容易い。後はどうにか逃げようとする残党を斬り伏せ、光の矢で貫き、幾多の屍を山の様に積み上げ、すべては終わった。
「…大丈夫か?」
返り血を浴びて赤く染まった冒険者のリーダーが自分を手を差し伸べてきたのを見て、ワーテルはようやく自分が腰を抜かして座り込んでいた事に気がついた。
「…強いんだな。冒険者って」
彼らの実力を最初に僅かでも疑った自分を恥じた。掴んだ掌は大きく、硬く、何より力強かった。
「俺も…冒険者になりたい。冒険者になれるかな」
その言葉は当たり前の様に、自然と口から流れ出ていた。ついさっきまで…いや、口にした瞬間ですらその台詞が信じられなかった。男は笑う。掌に力を込めて。それが、一人の少年の世界のすべてを変えた…変えてしまった。
ずっと、胸に秘めていた。ずっと、憧れ続けていた。
だが、それは誰にも言わずにいた。
ただでさえ若者が少ない村だ。ワーテルが言い出せば他の若者も感化されてしまうかもしれない。
それ故に18歳の誕生日を迎えてすぐに、彼は誰にも何も言わずに村を出た。
ありったけの路銀を集めた。旅に必要になる道具を買って隠しておいた。武器となるボウガンの手入れを怠らなかった。
自分に期待をしてくれている父や、いつも自分の身を案じてくれる母。
自分を慕ってくれる兄弟や村の人々の事を思うと後ろ髪を引かれないわけではなかった。
だが、一度胸に点った炎は決して消える事が無かった。
たった一つの目的のため、彼は目指した。
見知らぬ街、見知らぬ世界、数多の夢が集まる都市、リューン へと。
―冒険者になりたい。
その思いだけで。
午後10時――
冷え切った手を擦り合わせながら肺の奥から吐息をほっと吐きかける。
僅かだがまだ温もりが残った呼吸が自分はまだ生きていると自覚させてくれる。
空は漆黒。篝火が照らす空にはようやくぽつりぽつりと星の瞬きが顔を覗かせる様になった。
街は未だ喧騒の只中にいた。遠くから耳に入る音楽は吟遊詩人が奏でる舞踏曲だ。
どこかの宿で皆が輪になりゴブレットを交し合いながら飲めや歌えやの大騒ぎをしているのだろう。
その音に交じり、さくさくと雪を踏む音が近づいて来た。
寒さに鼻の頭も頬も赤く染めたディルクだ。
「休憩の交替だ。ワーテル、エミール、詰所で休んでてくれ」
「ああ、待ちわびたよ!」
ようやく待ちに待った時間がやって来た。ワーテルは震える自らの肩を抱きながら駆け足で詰所へと向かう。
彼の近くで同じく立ち番をしている同年代の自警団員、エミールも雪を踏み分けながら詰所へと駆けて行く。
エミールと共に顔を見合わせながら詰所の扉を開いた。
彼の顔は寒さに青白くなり、唇は紫色に染まっていた。自分もきっと同じ様な酷い顔をしているのだろう。
笑い合いながら詰所の暖炉の前の椅子に向い合せで座る。
警備の間、彼とは事務的な会話以外はしなかったが、互いに同じ寒さと辛さを共有した仲だ。
すでに同志と言っても過言ではないだろう。
ぱちぱちと薪を爆ぜさせながら、暖炉の炎は二人をゆっくりと温めて行く。
半ば凍り付いた手袋を外すと、固まり切った関節がそのまま折れるのではないかと心配する様な音を立てて動いた。
「うわぁぁ~、あたたかいなぁ。二度と外に出たくなくなるな」
思わず漏らしてしまったワーテルの感嘆にエミールは「生き返りますねえ」と同じく暖炉に手を翳しながら声を上げた。
温められた体液が穏やかに体内を駆けるのを感じる。靴を脱ぎ、靴下まで暖炉で乾かそうとしているワーテルをよそにエミールは暖炉の上にかけてある大きな銅鍋をお玉でかき混ぜている。
鍋からは良い匂いが立ち上がり、自然と食欲を湧かせた。
「どうぞ」
「あぁ、ありがとう」
熱々のスープが入った深皿とスプーンをエミールが手渡してくれ、ワーテルはがっつく様にそれに口を付けた。
冷えた唇にスープは火傷するほどに熱かったが、それ以上に心地良かった。
一口啜ると胃の底から溶かされる様な感覚に支配された。
冷えた舌では味など分からなかったが、二口、三口と口にする度に程よい塩気が味覚を癒してくれる。
煮崩れて原型を失ったじゃがいもも、口の中で蕩けるキャベツも、弾力のあるソーセージもどれもこれも最高の御馳走だ。
「ワーテルさんも、急に駆り出されて大変ですね」
スープを食べる事に夢中になるワーテルにエミールが声をかけて来た。
「今日だけで風邪をひきそうだ。人手不足で冒険者に声がかかるのもわかる気がしてきた」
ソーセージを口に放り込みながらワーテルは続ける。
「けど、そんなにひどいのか?常勤隊の風邪」
ワーテルの問いにエミールは軽く目を泳がせてから肩を竦めて笑った。
「カールさんは新婚ホヤホヤだし、ホルストさんは奥さんが妊娠中。ミヒャエルさんは5人目の子供さんが生まれたとこだし―。それにフリッツさんは、出てった奥さんが昨日戻ってきたそうですからね」
「それじゃ門番どころじゃないな。風邪でも何でもひいて、手厚く看病してもらわなくちゃな」
門を横切って行った幸せそうな家族達を思い浮かべる。そのどれもが笑みを浮かべて、この聖夜を満喫している。自警団員の多忙さはワーテルも知っている。自警団員もまた、家族を持ち、家庭を守っている。こんな夜だからこそ、彼らは彼らの家族と聖夜を祝いたいのだろう。自分が寒空の下で手足を凍えさせながらリューンの平和を護る事は決して意味の無い事ではない。面と向かって誰かに感謝される仕事ではないが、無意味ではない。
ワーテルは皿を両手で傾けて残りのスープを一気に飲み干した。
夜はまだ長い。寒さもまだ厳しいだろう。耐え抜くためには栄養補給は必須だ。
「もう一杯もらえるか?」
「えぇ、もちろんです」
深皿を差し出したワーテルにエミールはどこか嬉しそうに頷いた。
午後11時半―。
不意に轟いた鐘の音にワーテルは顔を上げた。厳かにリューンの街へと鳴り響くのは教会の鐘だ。深夜礼拝が始まるのだろう。鐘の音はまるで夜を切り裂く様に何度も響き、その荘厳さは聖北の信者でなくとも身が引き締まる思いを湧き立たせた。
ぽぅと灯ったランタンの行列が篝火に照らされたリューンの通りを練り歩くのが壁の上から見える。ランタンの明かりはまるで一本の線を描く様に街路から教会へと連なる。長い列が描く絵画の様な光景にワーテルは思わず見惚れた。故郷では決して見る事が叶わなかった光景だ。
連なる明かりをじっと見つめているワーテルに背後から声がかかる。ジェルジだ。
「なあ、ワーテル…。聖誕祭って、なんだろな」
一瞬、何かの皮肉かとも思えたがその声には揶揄する様な響きは感じられず、本音からぽつりと疑問が漏れただけの様に思えた。
「どうしたんだよ、改まって。いよいよ信仰に目覚めたのか?」
「そんなんじゃないけどよ、ああして礼拝に行く奴あり、どんちゃん騒ぎする奴もあり…」
ジェルジはそこで腕を頭の後ろに組み、盛大に白い息を吐いた。
「"聖夜に仕事なんてやってらんねえぜ"―と言いたいところだが、じゃあ聖誕祭ってのは本来どう祝うもんなんだろな、と」
生誕祭とは何か。
ワーテルは聖北の教徒ではない。だが、故郷の村では僅かながら聖北の教えを守りそれに従って生活する者もいたので全く知らないわけでもない。好奇心旺盛だったワーテルは幼い頃から彼らに紛れて見様見真似で祈りの儀式の真似事をしたり、神に捧げられたお菓子をくすねて食べたりした物だ。ワーテルは信仰と言う概念をあまり理解出来ない。狩人の頃は山の神に狩りの無事を祈り、神の怒りに触れる様な振る舞いは決してしなかった。それは信仰心からではなく"風習だからやるべき事だ"と思っていたからだけだ。だが風習から解き放たれた今、冒険者となった現在はどうだろうか。自分を縛る神などどこにも存在していないのでは無いのだろうか。
ワーテルは思い浮かべる。
街を行く幸せそうな家族を、食卓に並ぶ温かい食事を、宿で酒を酌み交わす仲間達を。
「人の絆ってやつを確かめ合う日―そんなところだと思うな」
宿の親父、娘さん、同じ宿を根城とする冒険者、ジェルジにゲルダに他の宿の同業者、それからディルクにスープを分け合ったエミール。この街に来てから出会った数多の顔が脳裏を過り、ワーテルは瞼を閉じた。
「人は一人じゃ生きられない。仲間やら家族やら友達やらいつもお世話になってるあの人や、身を案じてくれるこの人…」
置き去りにしてしまった故郷の家族、友人。彼らはどんな聖夜を過ごしているのだろうか。
「日々を支えるさまざまな人の絆…当たり前のように受け止めていることを、一緒に飲み食いしたりしながらあらためて思い返す―」
ワーテルは瞳を開き、ジェルジに胸を張って告げる。
「そういう口実に使われるなら神様だって悪くは思わないだろう。平穏への感謝の心さえあれば、どんな形で聖誕祭を過ごしてもいいんじゃないのか?」
そう。神様の事はよく知らない。だが、神様にも慈悲の心とやらがあるのであれば、"ありがとう"の一言だけで十分なのではないか。もしも自分が神様であるならばそれで十分だ。
ワーテルの声に熱がこもったのを感じてか、ジェルジは顎髭を撫でながらゆっくりと笑んだ。
「そうだな。ウチのヒゲ親父に酒でも買って帰るか…」
ワーテルも彷徨うクラゲ亭の親父の事を思い出す。今頃は好き勝手に騒ぎ立てている冒険者相手に黙々と料理と酒を出すのに忙しくしているだろう。聖夜に働いているのは自分だけでは無い。ジェルジと同じ様に何か親父の好きそうな酒でも買って帰ろうかとワーテルは軽く笑みを浮かべた。
「こら!エミール!眠るな!」
宿へと思いを馳せていたワーテルの耳にディルクの怒号が響いた。
「イテテテテ…す、すみません隊長」
「まったく、凍え死んじまうぞ。ここはいいから詰所で休んで来い」
夜も深まって来た。立番のあげくにこの寒さだ。眠気が襲って来る気持ちも分かる。ディルクに促され、エミールは欠伸を噛み殺しながら詰所へと覚束ない足取りで向かって行った。
顔をこちらに向けたディルクに『大変そうだな』とワーテルを肩をすくめて見せた。
「さすが冒険者、鍛え方が違う。ウチの若いのよりよっぽどしっかりしてらあ」
「何なら俺たちを隊員にしたらどうだ?」
「ハッハッハ、冗談はよせやい。冒険者って奴はひと月も経たないうちに旅を恋しがるだろ」
互いに答えが分かりきっている問いかけを投げ合う。冒険者は冒険をするから冒険者なのだ。ひとところに安住を得て旅を忘れ組織に囚われた時点で冒険者は冒険者では無くなる。それは冒険者としての"死"だ。
「定収入と気ままな冒険は両立しないんだよ」
「定収入と引き換えに自由を失った、って言いたげな顔してるわよ」
両手を上げるディルクに向けて背後にいたゲルダが含み笑いと共に言い放った。
「ほっとけ。これでもいろんなもん背負ってるからな」
彼の目はどこか遠くへと向けられていた。その先に見ているのは家族なのか、あるいは自分の部下なのか、はたまたリューンの街並みなのかは分からない。
「不自由だが、大事なもんさ…いまさら捨てられねえよ」
もしかしたら、そのすべてを見ていたのかもしれない。
5.
穏やかな門の警護がにわかに騒がしくなったのは午前4時を過ぎた頃だった。まだ夜も明けず変わらず空は漆黒に覆われている。だが、幸いな事に雪は降り止んでいた。
最初に感じた異変は音だ。門から少し離れた森から狼の荒い呼吸が耳に入ったのだ。
ワーテルは狩人の出のため耳は良い。数にすれば10頭よりは少ないだろうが群れである事は間違いないだろう。まだ夜も明けぬうちに狼がこんなにも騒ぐだろうか。
森を歩き回る音、僅かな咆哮、草を掻き分ける音。それがそこここから響き渡る。
「さて、休憩の交替だ。今度はワーテルだな」
ディルクが背後からそう声をかけて来たが、ワーテルは「ちょっと待ってくれ」とそれを遮った。
聞こえる。何が擦過する音だ。それに狼ではない動物の足音。そして何よりも。
「鈴の音だ」
顔を上げたワーテルとディルクにエミールが慌てた様子で声を上げた。
「1頭立てのソリが1台、来ます!」
「夜の森を突っ切るとは無茶をする」
ディルクが苦い顔をした理由は分かる。夜闇に包まれた森は夜行性の獣が征服する世界だ。頑丈な幌で包まれた三頭立ての馬車ですら獣の群れに囲まれればひとたまりもないだろう。それを1頭立てのソリで乗り切ろうなどとは自殺行為に等しい。
「止まれー!止まれ!」
自警団員の声を聞いて門の前でソリが止まった。
ワーテルも慌てて駆け寄ると、ソリを操っていたのは一人の中年の男だった。酷く慌てた様子で息も絶え絶えだ。
「わ、わしはフルダ村のヨーハンっちゅう者でやす」
フルダ村。リューンまで1里半程の距離の小さな村だ。ワーテルも依頼で何度か足を運んだ事がある。リューンからの道中はイーレンの森と呼ばれる小さな森を抜ける事になる。昼間はまだ良いが夜になれば獣の縄張りだ。よくそんな中をたった一人でここまで走り抜けられたものだ。
ヨーハンの手は微かに震えている。恐らく決死の覚悟でソリを引いて来たのだろう。
「息子が高熱出して死にそうなんで、お医者のザックス先生を迎えに上がったんでやす。後生でやす、通してくだせえ」
ヨーハンの声も震えていた。その顔は焦りと悲壮感に満ちていて、ワーテルの心も痛んだ。何か声をかけてやりたいと一歩踏み出したが、ディルクの指示の方が早かった。
「あんたも死にそうだ。エミール!先生叩き起こして来い」
ディルクの怒号にも近い声にエミールが「はい!」と返答し走り出す。
「ヨーハンさん。とりあえず、詰所で少し暖まれ。アドルフ、留守頼む」
放っては置けない。それは一般的には"お節介"と言う言葉で済まされるだろう。他人の苦境に口や手を出し、自分への礼は省みない。"お人好し"のワーテルにとってもはやヨーハンは放っては置けない人物へと変わっていたのだった。ディルクに付き添われ詰所に向かうヨーハンの後ろ姿をワーテルは慌てて追いかけた。
ディルクが使いをやったザックス医師についてはワーテルも話は聞いていた。常に不機嫌そうな顔をしており愛想も良くない。ただ、その心意気はまるで聖人の様だった。他の医者が嫌がる貧乏人の診察も引き受け、近郊の村にも労を厭わず往診する。関わる機会は今まで無かったが尊敬も信頼も出来る医師との評判だ。かつては冒険者だったとの噂もある。夜明け前、しかも狼が住まいとする森を抜けての往診だ。普通の医師であれば確実に断るだろう。しかしワーテルにはザックスが引き受けるであろうと感じていた。彼は弱き者を見捨てない。たとえ危険を冒してでも。
一方、息子を案じるヨーハンは気分を落ち着かせるためにと渡されたハーブティーを口にしながらも詰所のドアを何度も何度も見遣っている。
家人の制止を振り切ってまでソリを駆けてリューンまで来たのだ。今、この瞬間も彼の息子は痛み、苦しみ、生死の境を彷徨っている。
「…………」
励ます言葉も、気遣う言葉も思いつかず、ワーテルは神に祈るヨーハンの肩に時折触れる事しか出来なかった。
待ち望んだ相手は直ぐに詰所のドアを開いた。ほんの僅かな時間だったがヨーハンにとってはまるで永遠にも等しい時間だっただろう。
「先生をお連れしました」
往診鞄を提げたザックス医師は噂に違わず不機嫌そうに眉間に皺を寄せていた。彼も聖夜を穏やかに過ごしていたのだろうか。ヨーハンが息子の容態を訴え、往診を請うた。ヨーハンは相当に慌てている様子で会話の内容も支離滅裂だったがザックスは僅かな言葉で状況を理解したらしい。深く頷き、ヨーハンの肩を叩いた。
「わかった、すぐ行こう。 とにかく時間が惜しい」
そのまま、勢い良く扉を開いた。つと振り返り、立ち尽くすワーテル達に告げる。凍りついた風が室内に入り込み、ワーテルの黒い髪を靡かせた。
「誰か一人、護衛についてくれ。 狼がいるとなると心細い」
ジェルジは表面上こそ軽いが腕の立つ冒険者だ。ゲルダは雪上での戦いにも慣れた手練れだ。彼らであれば確実にヨーハンとザックスを安全に村まで送り届ける事が出来るだろう。だが―。
ワーテルは背負っていたボウガンに手を伸ばした。多くの時を共に過ごした得物だ。確かに自分には戦いの経験は乏しい。
だが、誰にも負けない気持ちだけは持っている。
冒険者になりたい。誰かを助けたい。憧れの存在になりたい。だから、自分は-。
「俺が行く」
ワーテルは即座に返答をして前へ出た。自らの非力さは十二分に理解している。だが、湧き起こった熱い感情を止める事など出来なかった。
ザックスは歩み出たワーテルをちらりと見てから鋭い眼光で問いかける。
「すまん、名前は?」
「ワーテル。彷徨うクラゲ亭の冒険者だ。ボウガンなら使える、あんた達の護衛くらいならできる…やらせてくれ!」
ザックスはそれ以上は何も言わなかった。だがその目は確かに『頼む』とワーテルに答えていた。
風が吹きすさぶ扉の外へとザックスは出て、ヨーハンの粗末なソリに荷物を積み込み後部に乗り込む。
ヨーハンがそれに続き、ワーテルは見守る皆に「行ってくる!」とだけ告げ、彼らの後を追った。
木製のソリは古ぼけてはいたが、しっかりとした幹から削り出された物の様で頑丈だった。
ワーテルはザックスの横、ソリの左後部に乗り込んで出立を待つ。
ソリの主は客人が姿勢を安定させた事を確認すると鞭を振り払う。
大きな揺れと共に、ソリは走り出す。雪道をサラサラと流れ、風景も同じ様に流れて遠ざかって行く。
篝火、確かな期待を持って見つめるいくつもの瞳、未だ聖夜に包まれた街、それを見守る巨大な門扉。
鈴の音と共に明るさが消えて行く。僅かな時の間に視界は雪の白と夜闇の黒に埋め尽くされて行く。
ランプの僅かな明かりに照らされるのはひっそりと静まり返ったイーレンの森の景色だけだ。
森は黒々とした枝を手の様に差し伸べ、今にも小さなソリを自分達ごと連れ去ってしまうかの様に思えた。
それは酷く不安にさせ、酷く恐怖心を駆る。
ヨーハンも森の不穏さを感じ取っているからだろうか、それとも今も苦しむ我が子のために必死なのだろうか。
何度も鞭をしならせ、ソリは彼自身の気持ちを反映して加速する。
「このまま、夜に飲み込まれてしまいそうだな…」
不意に訪れる気味の悪い感覚につい独り言を漏らしてから、ワーテルを慌ててそれを追い払う。
同時に夜のしじまを一つの音、いや咆哮が切り裂いた。
「狼の声だ!」
ワーテルが叫ぶと同時にヨーハンが小さく息を呑んだのが分かった。彼の肩は僅かに震えている。
漆黒の空間に目を凝らせば爛々に輝く光が二つ、四つ、いや、それ以上か。ソリを背後から追いかけて来ている。
ソリを引く馬も自らに迫る危機を察知したのだろう。暗く頼りない森の道を駆ける蹄が激しく鳴り響いた。
今は、森のどの辺りだろうか。かなりの速度で駆けて来たはずだ。
昼間であれば森の景色で村まであとどれくらいか検討もつくのだが、視界を流れ去る景色は黒いベールに覆われ判別が付かない。
狼の声は、黄色く光る双眸は、徐々に近づいて来ている。張り詰めた空気でそれを感じ取る。
ワーテルが良く知る、狩りをする獣の気配だ。だが、森の出口は決して遠くないはずだ。
このまま駆け抜けられれば…。
そう感じた瞬間、ソリを引く馬が嘶き、その足が止まった。
ソリを囲む気配、闇に慣れた目がその荒々しい姿を捕らえる。鋭い牙を剥き出しにし、我こそが森の支配者だとばかりに睨みつけて来る。
「囲まれたようだな…今は3、4頭ほどだが、まだ増えそうだ」
「状況は不利だな。 戦いながら突破するしかないだろう」
短剣を構えるザックスの横でワーテルもボウガンに矢をつがえ、今にも飛び掛かって来そうな狼の眉間に狙いを付ける。
「ヨーハン、森を抜けるまであとどれくらいだ?」
「あ、あと500歩ほどでやす、旦那」
目線は狼から外さぬままワーテルが背後に問いかけると、絶望交じりの声が耳に入る。
極寒の冷え込みだと言うのに嫌な汗が額から頬へと伝った。
狼との戦いは初めてではない。だがそれは他の狩人と共に、あるいは他の冒険者と共に、昼間の森での戦いしか経験していない。
五百歩の距離が永遠にも思えるほど遠い。
狼の攻撃からヨーハンとザックスを守りながら村まで突き進むか、あるいはすべての狼を撃退するか。
どちらにせよ、一番の戦力となるのは自分だ。自分がやらねばならない。
「ヨーハン…あんたは村まで走り抜く事に専念してくれ!」
ザックスが構える短剣は使い込まれているが、よく手入れされている。
やはり彼がかつては冒険者だったという噂は本当だったのだろう。
彼は鋭い眼光を狼に向けながらも待っていた。
待つ。何を待つ。決まっているではないか。冒険者の一声だ。
「行くぞ先生!」
馬が再び走り出すのと、ワーテルのボウガンが放たれたのは同時だった。
一撃目の矢は確かに狼の眉間を捕らえた。短い悲鳴を上げ、狼の内の一匹は鮮血を巻きながら雪道に倒れ視界から消え失せた。
だが、その後ろからは新たな狼が獰猛に牙を剥きながら飛び掛かってくる。
新たな矢をつがえる時間など無い。鋭い牙が腕に突き立てられるのを覚悟すると、その狼をザックスが一撃の下に伏せた。
「先生、すまない!」
「気を抜くな、冒険者」
ザックスの言葉の通り、気を抜いている時間など無い。たかが五百歩、されど五百歩。
確実に村は近づいてはいる。だが。
ヨーハンが、馬が、ザックスが、そのいずれかが負傷すれば村で父親の帰りを待つ子供の命は保証されない。
保証されないのは自分の命も同じだ。狼達の遅い夕餉になる可能性は決して低くない。
急ぎ次の矢をつがえ、ソリを追う狼に狙いを定める。
「…大丈夫だ、大丈夫。狼狩りなら慣れてる。俺は冒険者だ…聖夜を護る、守護者だ」
襲い掛かる爪を寸で避ける。雪がまとわりついた獣の毛がソリの上まで降りかかり、それを避けながら後頭部にボウガンの柄を思いきり叩き下ろす。鈍い音が響くが狼は怯まなかった。次いで牙がワーテルの腕を噛みちぎろうと涎を垂らしながら迫り、ワーテルをボウガンをその口へと突っ込み、引き金を引く。矢は脳を貫き、森へと消えて行く。
鈍い音と共に動かなくなった狼を右足でソリから蹴り落とし、急ぎ次の矢をつがえる。
「何頭いるんだよ、キリがないな…」
生暖かい狼の血が服に染みこんで行くのを感じる。この寒さなら温もりは心地良いはずだが、鉄臭い液体はただただ気味悪いだけだ。
村まではあとどれほどだろうか。前方を確認する余裕はない。狼は見える限りで三頭。森の出口は未だ遠き地だ。
ソリがガタリと音を立てて揺れる。狼が馬へと標的を変えようとしている。
馬が動かなくなれば即座に狼の群れに囲まれ、全員が命を落とす事だろう。
小さく舌打ちをし、ワーテルは駆ける狼に狙いを定めた。馬の喉元へと今にも食らいつきそうな狼を射る。
灰色の毛並みは矢を受け、弾かれる様に雪に覆われた草むらへと姿を消した。
その時、ザックスが「ワーテル!」と声を荒げた。
「…え?」
振り返った刹那、肩に鋭い熱…いや、痛みが走った。
「ぐっ!」
背後から別の狼が迫っていたのだ。ザックスが声をかけてくれなければうなじを噛みちぎられていただだろう。
ボウガンを慌て構えようとするが、痛みで腕が上手く動かない。瞬時にソリへと上体を乗せた狼をブーツの踵で蹴り倒す。
なおも狼はワーテルを餌にしようと身を乗り出すが、黄色く輝く光彩を横から飛んできた鋭いナイフが一筋薙いだ。
「助かった、先生」
「礼は後にしろ。今は生き抜く事だけ考えろ」
ワーテルはボウガンに矢を装填するが激しい痛みのため手つきがままならない。肉を抉られたのだろうか。出血もしている。ぽたぽたとソリの木目に血が滴るのが暗い中でも薄っすらと見える。
何て。何て自分は弱い生き物なのだろう。本来であれば自分が皆を守らなくてはならないと言うのに。
子を思う父を、子を救う医師を、穏やかな聖夜を、そこに息づく人々を。
冒険者として、冒険者だから。かつて村を守ってくれた冒険者の様に。
「うおぉぉぉぉお!」
ドクンドクンと心拍に合わせて傷口から血が溢れるのを感じる。腕を動かす度に呼吸が止まる程の痛みが走る。
それでもワーテルはボウガンを構え、矢の切っ先で狙いをすませる。
自分は狩人の子だ。そして、冒険者だ。負けたくない。諦めたくない。そして、守りたい。
矢が放たれる音が、暗い森に響き渡った。
6.
ヨーハンの言葉は正確だった。村まで五百歩。
森の中の道は穏やかな曲線を描き、その先に出口が見える頃にはソリは狼の群れに囲まれていた。
だが、森の出口付近に松明を持った人々が一斉にソリを守る様に鬨の声を上げるとその人数に臆され狼の群れは森の奥へと引き返して行った。
ヨーハンの身を案じた村人達だろう。かなりの人数がおり、その誰もが心配そうにソリを村へと迎え入れた。
ようやく、森に平穏が訪れる。
「助かったな…」
気が抜けると肩の痛みが増した。ワーテルは痛みに顔を顰め、傷口に手を当てた。かなり深く抉られている。よくこの手でボウガンなど持ち上げられた物だと自身でも驚くほどだ。
幸いな事に怪我を負ったのはワーテルだけだった。
ワーテルはすぐにヨーハンの家まで運び込まれ、ザックスの手荒いが確実な応急手当を受けた。
傷を洗われ、止血剤と化膿止めの軟膏を塗られ、包帯を巻かれる。
彼は「あとは寝ていろ」と言い残してから、隣の部屋―ヨーハンの子が待つ部屋へと足早に向かって行った。
ズキズキと傷は痛むが眠れない程ではない。だが―。
ワーテルは狼と己の血で赤く染まったままの掌を見つめた。
守る事は出来た。ヨーハンもザックスも。だが、多数の狼の前で自分はいかに非力だったのだろうかと思い知らされた。
ザックスの助けが無ければ今頃自分は死んでいただろう。あまりに、非力すぎるのだ。
自分がもっと強ければ、狼に囲まれてもすぐにすべてを叩きのめす事ができただろう。
いつか、自分の村を守ってくれた冒険者達の様に。
「…強い冒険者になりたい」
口から零れた言葉は深く刻み込まれる。依頼人を守りたい。仲間を守りたい。あらゆる困難に負けたくない。
肩の痛みよりも微睡み始めた意識の方が強くなってきた。出血したせいもあるだろう。
隣の部屋では幼い子供が苦しみと戦っている。せめて励ましの言葉でもかけてあげたい。
そう思いはするが耐え難い眠気がそれに勝る。少しだけ、ほんの少しだけ、眠ろう。
柔らかい布団に引き込まれる様に、ワーテルはしばしの間、意識を手放した。
「お子はもう大丈夫だ。部屋を暖かくして安静にしておくがよい」
ザックスの力強い声にワーテルの意識は夢から引き揚げられた。どれほどの間、自分は眠っていたのだろうか。
窓から見える景色はまだ暗い。未だ痛む肩を押さえながらもワーテルは起き上がり部屋を出た。
そこにはザックスを囲み彼の手を何度も握り礼を言う村人達の姿があった。
「先生、ありがとうごぜえやす」
父親であるヨーハンもまた、ザックスの顔を見ながら泣き出しそうな顔で礼を言い周囲の人間は十字を切った。
「なに、お子の生命力と、お前さんの親心、そしてワーテルのおかげだ」
不意に自分の名が呼ばれ、村人達の顔がこちらへと向いた。
そのどれもが感謝に満ちた瞳をしており、ワーテルは「俺は単なる護衛だから」と照れ隠しに視線を逸らせた。
逸らした先に見える窓。そこに見える景色が鮮明になる。宵闇の黒を和らげるように淡い光が満たしていく。
「ああ、夜が明けるな」
生誕祭が終わった。数多の人間に同等に訪れた夜が終わった。幸せも温もりもすべて包み込んだ夜が。
今年の生誕祭は忘れられない日になった。
それはワーテルにとってもヨーハンの家族にとってもザックスにとっても同じだろう。
今、この場にいられて良かった。その思いだけがワーテルの胸の中にあった。
ヨーハンのソリに揺られてリューンに戻る頃には、街は朝日に照らされ明るさに満ちていた。
ヨーハンとザックスとは門で別れ、一人ふらふらとリューンの街を歩く。
肩の傷は未だ痛むが後できちんと治療をしてもらえば良いだろう。
昨夜の寒さなどまるで忘れてしまったかの様に陽光が差す街はキラキラと輝いていた。
喧騒の名残を感じさせない街は閑静で、どうにか聖夜の残骸は無いかと路地裏を覗き込むワーテルの期待を裏切った。
護衛代の代わりだとヨーハンから受け取った葡萄酒を片手にワーテルは自警団の組合事務所へと向かっていた。
門の護衛の仕事はすでに終わっている時間帯だ。共に凍えながら門扉の前で立ち尽くした仲間達はすでに自らの本来あるべき場所に戻っているだろう。
「ただいま」
「おう、帰ったか」
組合の事務所の扉を開くと、寝ずにワーテルの帰りを待っていてくれたであろうディルクが出迎えてくれた。
首尾を報告するとディルクは頷きながら「お疲れさん。まず、門衛の報酬だ」と銀貨を数枚ワーテルに手渡した。
他の依頼と同じ銀貨のはずだったが、やけに重く感じたのは肩に怪我を負ったせいだけではないだろう。
「ワーテルがいて良かった。お百姓とお医者と病気の子供と、聖誕祭に葬式を出さずに済んだよ」
まだ上手に力が入らない掌で銀貨を強く握りしめる。
―俺達は、この"聖夜の守護者"なんだよな。
つい数時間前に自分で口にした言葉を思い出す。
冒険者として自分は守り切ったのだ。大切な聖夜に、大切な人々の平和を。
自然と口元が笑みを浮かべていた。この報酬は金額以上の価値を持っている。
「いやはや、本当に助かった。また頼むよ」
「来年の聖夜は勘弁願いたいな」
互いに冗談めかして笑い合うとディルクが思い出した様に言葉を続けた。
「…あ、それからだな、ゲルダとジェルジから、ヒマなら遊びに来いって伝言だ。今日は寝てるそうだが」
降りしきる雪の中で聖夜を守り抜いた同志だ。きっと良い酒が一緒に飲めるだろう。それにあの同年代のエミールを誘っても良いかもしれない。知り合ったばかりだが彼とだってきっと楽しい一夜を過ごせるに違いない。それならザックスだって誘いたい。仏頂面で口数は少ないが元冒険者であるならきっと素晴らしい冒険譚を隠し持っているはずだ。
計画は勝手に膨らむが、まずはその前に…。
「ありがとな。 俺も帰って寝る」
今は兎にも角にも、ただ単に眠りにつきたかった。
エピローグ
「ただいま」
疲れ切った身体で"彷徨うクラゲ亭"の扉を開くと、そこも昨夜まで存在していたはずの喧騒を忘れ去ったかの様に静まり返っていた。
おおかた酒瓶やら皿やら残飯やらがそこここに散らばっているかと想像していたのだが、亭主か娘さんが…あるいは散らかした張本人達が片付けたのか、食堂は平素と同じように綺麗に片付いていた。
親父はいつもの朝の風景と変わらず、カウンターで皿を磨いており、ワーテルの姿を認めると「おう、おかえり」と声をかけてくれた。
「疲れたろ。ちょっと待ってな。ニンニクスープを作ってやる」
「宴会明けで寝てるかと思ってた」
「お前さんが腹空かして戻ってくるだろうからな」
鍋に火をかけ始める親父の後ろ姿に声をかけながらカウンターに付く。聖夜の翌日に依頼をする者も依頼を受けようとする者もいないのだろう。酷く静まった空間はいつでも騒がしい宿には似つかわしくなく思えて少しだけ居心地が悪かった。
「それにアレだ、聖誕祭に付き物の大切なことをしとらん」
温まったニンニクスープが入った皿を出しながら、親父が意味深な笑みを浮かべた。
スプーンでそれを一すくい口の中に入れながら「大切なこと?」と問う。
ニンニクがたっぷり入ったスープは体を芯から温めてくれる。いつもの味がほっと体も心も癒してくれる。
「いま七面鳥を炙り直してる。聖誕祭にはみんなでコレをつつくと決まっておるんだ」
七面鳥。昨日、自分が買ってきた巨大な鳥だ。取っておいてくれた親父に礼をしなくてはならないだろう。てっきり生誕祭らしい食べ物はすべて宿の冒険者達の胃袋へと収まってしまったのだろうと諦めていたのだから。
親父に何か言おうと口を開いた時に、勝手口が開く音が響いた。
「ふわぁ~、おふぁよぉ~。あ、ワーテル。帰ってたんだ。おかえり!」
宿の娘さんが欠伸交じりにワーテルに挨拶をする。昨夜は冒険者達の相手でさぞや疲れた事だろう。それとも冒険者と共に騒いでいたのだろうか。親父と二人きりだった食堂がにわかに賑やかになる。
「遅ようさん。とりあえず顔洗って来い。ささやかだけど、宴としよう。昨日の残り物で悪いがね」
残り物などと言ってはいるがきちんとワーテルの分を残しておいてくれたのだろう。このさりげない優しさが何よりも嬉しい。
やがてテーブルの上が"残り物"と呼ばれた御馳走で埋め尽くされる。
パリパリと焼けた七面鳥、しっとりとしたパウンドケーキ、薄く切られた玉ねぎのサラダ、煮詰められたひき肉の団子、皆が大好きな揚げじゃが。
これで酒があれば昨夜の生誕祭そのものになるだろう。いや、酒なら持っている。ついさっきヨーハンから貰った酒だ。
親父と顔を見合わせる。
「聖誕祭おめでとう」
「おめでとう」
いつも通りの朝。だが、決して一年前では味わう事のできなかった朝。
冒険者だから。冒険者でいるからこそ味わう事のできる、今日この瞬間この場所で感じられる朝だ。
美味しそうな匂いを嗅ぎつけたのか、上階から同じ宿の仲間達が次々と食堂に下りてくる。
昨夜さんざん飲み食いしたはずの彼らだが、やはり御馳走には目が無いのだろう。
ワーテルの前に広げられた小さな宴の会場に手を伸ばそうとしている。
「お前ら、夕べも食っただろうが。これはワーテルの分!」
「いいって親父。こういうのは大勢が楽しいんだし」
ワーテルはそう言って笑った。
来年の聖夜、自分はどこで何をしているのだろうか。
この宿で仲間達と過ごしているのだろうか。あるいは大切な誰かと二人で穏やかに過ごしているのだろうか。それともまた今年の様に仕事に追われながら寒空の下にいるのだろうか。
思いを馳せながら、ワーテルは宿の中を見渡した。
想像も出来ないような冒険がきっと自分を待っている。夢は膨らむ。
決して果てが見えないこの世界の上で。決して飽きる事がないこの街の中で。
『平穏な日常を守る、聖夜の守護者。
あなたは誰かの心の中に暖かい光を灯している。
聖夜に働くあなたに幸せが訪れますように』
2021.6.11
【あとがき】
カードワースのリプレイを書きたいと思った時に、真っ先にこのシナリオが思い浮かびました。
(これをリプレイと呼んで良いのかは私にはわかりませんが…)
冬と言えば聖夜の守護者ですね。現実では季節は夏ですけど。
元シナリオの文章がとても素晴らしいので「リプレイなど書いて良い物なのか…」と悩みましたが、
書き終わった今は後悔していません。本当に素敵なシナリオをありがとうございました。
おまけ
【冒険者データ】
 名前:ワーテル 性別:男 年齢:若者 素質:標準型
 特性:田舎育ち・猪突猛進・貪欲・鈍感・楽観的・陽気・地味・お人好し・愛に生きる
 パーティでの立ち位置:パーティ発起人&何の役割も無い人
 フレーバークーポン:髪「黒髪」、眼の色「黒眼」、夢「正義の実現」
 ※「器用」の適正低いですが無理矢理に弓やボウガンのスキルを使っていました。
  現在は銃が主武器のガンナーなのですがやはり適正無いので無理矢理使っています。
  発起人ですが性格が素直すぎてリーダーにも参謀にも不向きなため役割は何も無い人です。
  宿名は『彷徨うクラゲ亭』です。名づけに意味はありません。単なるその場の思いつきです。
  私が最初に作ったパーティは予備知識一切無しで感覚だけで作ったので、キャラのバランス等にかなりの不具合を抱えています。
  盗賊は万能型ではないですし、参謀は頭脳派ではありませんし、聖北教徒は聖北のスキルの適正が低いです。
  完璧じゃないキャラで完璧じゃないパーティを組むのもカードワースの醍醐味なのかな…と、それはそれで気に入っています。

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